ワインの香りが「わからない」あなたへ。嗅覚は、語彙です

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「カシスとなめし革の香り」。ソムリエのこの手のコメントを聞いて、正直ぽかんとしたことはありませんか。わたしはあります。しかも、ワインの仕事を始めたあとに、です。

白状すると、フランスに来たばかりの頃のわたしは「なめし革の香り」と言われても、そもそもなめし革を嗅いだことがありませんでした。カシスも、日本のスーパーではあまり見かけない果物です。つまり——わからなかったのは嗅覚のせいではなく、語彙のせいでした。

パリの桜並木

フランス人は、香りを「日常」で覚えている

パリで暮らして気づいたことがあります。マルシェを歩けば、夏の終わりにはカシスやミラベルが山積みで、八百屋の店先は土の匂いがする。革工房の前を通れば、あの独特の匂いが漂ってくる。フランス人がテイスティングに強いのは才能ではなくて、香りの見本市のような街で暮らしているからなんですよね。

逆に言えば、日本にいながらワインの香りを学ぶには、その「見本市」を手元に持ってくればいい。

ソムリエたちの、秘密の教科書

そのための道具が、ル・ネ・デュ・ヴァン(Le Nez du Vin)です。フランスのワイン教育家ジャン・ルノワールが作った香りの標本キットで、カシス、スミレ、トリュフ、なめし革……ワインに現れる54の香りが小瓶に閉じ込められています。世界80ヶ国で使われていて、ソムリエ試験やワインエキスパート試験の受験生には定番の教材。わたしも資格の勉強中、寝る前に3本ずつ嗅ぐのを日課にしていました。目隠しで当てる遊びをフランス人の同僚として、完敗した夜のことは思い出したくありません。

正直な注意点。54種のフルキットは7万円台と、教材としては覚悟のいる値段です(香りの寿命も5年ほど)。まずは赤ワイン12種・白ワイン12種の小さい版から始めて、沼を確認してからフルセットに進む道もあります。それでも「ワインをもっと知りたい」が本気の方には、どんな高級ボトル1本より長く効く投資だと、わたしは思っています。

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香りの語彙がひとつ増えるたび、同じワインが少しずつ雄弁になります。グラスの中の「カシス」が見つかった日は、どうか小さく祝杯を。

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