「結局、最初に何を買えばいいんですか」。この連載を始めてから、いちばん多くいただいた質問です。
10回目の今日は、その総まとめ。ワイン1年生の買い物リストを、金額つきでお渡しします。
先に言ってしまうと、1万円あれば始められます。

写真は、ブルゴーニュのオスピス・ド・ボーヌの中庭です。色鮮やかな屋根で知られる、もとは貧しい人のための施療院。
ここは何百年も、ワインの寄進と競売に支えられてきた場所です。いまも毎年11月、この町のワイン競売が世界中の人を集めます。
初めてこの中庭に立ったとき、胸の奥が静かに熱くなりました。誰かの1本が、何百年も誰かを助けてきたのです。
ワインは昔から、特別な人だけのものではなかった。だからあなたの1万円も、ちゃんとこの世界への入場券になります。
リストは、この3行です。
- 最初の1本: シャトー・モン・ペラ(約3,000円)
- 最初の道具: INAOテイスティンググラス2脚(約2,000円)
- 残りの約5,000円: 比べるための2本目と3本目
1本目は、答え合わせのできるワイン
最初の1本は、3,000円のボルドー、シャトー・モン・ペラをすすめます。
理由はモン・ペラの記事に書いたとおり、濃さも果実味もはっきりしていて、「おいしい」が迷子にならないから。
最初の1本で「よくわからなかった」と感じると、2本目までの距離が遠くなります。わかりやすさは、入門ではそれだけで立派な実力です。
「濃い」「果実っぽい」と自分の言葉が出てきたら、それが答え合わせ。教科書の表現と一致していなくても、まったく構いません。
道具は、2本目のワインより先
次の2,000円は、ワインではなくグラスに使ってください。1脚1,000円ほどのINAOテイスティンググラスを、2脚。
2脚なのは、並べて飲み比べるためです。同じ形のグラスがふたつあれば、先週の1本と今週の1本を同じ条件で比べられます。
湯呑みとこのグラスで同じワインを注ぎ分けてみると、香りの立ち方の違いに驚くはずです。わたしはこの実験を、友人が来るたびにやっています。
世界のプロがこの一番安いグラスを基準にしている種明かしは、グラスの記事でどうぞ。
残りの5,000円で、比べる
残ったお金では、2,000円台のワインを2本。1本は白、もう1本は別の産地の赤、というふうに「比べる相手」を買います。
ワインの学びは、ほとんどが比較です。同じ1本を10回飲むより、2本を並べたほうが、舌はずっと早く育ちます。
たとえばモン・ペラの隣に、同じ価格帯のブルゴーニュの赤を置いてみる。「濃い」と「繊細」の違いが、言葉より先に舌でわかります。
ちなみにわたしの最初の1万円は、背伸びしたブルゴーニュ1本に全額消えました。緊張して味もろくに覚えていないのだから、ひどい投資です。
あなたはどうか、3,000円から始めてください。
そして1万円を使い切ったあとの次の一歩は、「香り」です。
ル・ネ・デュ・ヴァンの記事に書いた香りの標本は値が張りますが、貯金してでも手に入れる価値があります。
1本目、グラス、比べる2本、その先に香り。この順番なら、遠回りがありません。
まずは、最初の1本から。今夜のうちに注文してしまいましょう。
「ワインの基本のき」、10回おつきあいいただき、ありがとうございました。
色々書きましたが、届いた1本を開けて「あ、濃い。おいしい」と思えたら、それでもう1年生は合格です。
グラスの向こうには、あの色とりどりの屋根の町も、収穫の畑も、ちゃんとつながっています。
あなたの最初のコルクの音を、パリから楽しみにしています。


