ワインリストは、閉じていい — レストランで迷ったときの3つの伝え方

ワインのあれこれ

分厚い革張りのワインリストを渡されて、読めもしないページをめくるふりをする。あの時間、ありますよね。

視線は文字の上を滑るだけで、頭の中は「早く決めなきゃ」の警報だけが鳴っている。せっかくの食事の、いちばんもったいない数分です。

今日は先に結論を言います。リストは、閉じていい。

そのかわりソムリエに3つだけ伝える。予算、料理と好み、そして形容詞をひとこと。これで十分です。

人の少ないルーヴル美術館前の広場

8月のパリは、街ごとバカンスに出てしまいます。ルーヴル前の広場も、写真の通り人がまばら。

星付きで働いていた頃、そんな暇な夏の営業前に、ソムリエの同僚がぽつりと言いました。「一番うれしいのは、好みを正直に言ってくれるお客さんだよ」。

プロは知識を試したいのではなく、あなたに合う1本を出したいのです。今日の3つは、そのための合図だと思ってください。

「予算を口に出すのが、恥ずかしいです」

大丈夫、声に出す必要はありません。リストの価格欄をそっと指で押さえて、「このあたりで」と言えばいい。

ソムリエは同席者に金額が聞こえないよう、さりげなく動いてくれます。あれは世界共通の、大人の合図です。

予算を隠したまま「おすすめは?」と聞くほうが、実はお互いに困ります。

高い店ほど失礼にあたる気がする、という声も聞きますが、逆です。予算という枠をもらえた瞬間、プロは腕の見せどころを与えられたことになるのです。

ちなみに渡仏したての頃のわたしは、客として入ったビストロで見栄を張って適当にリストを指差し、上から2番目に高い1本を開けました。味より値段で酔った夜です。

「なんて言えば伝わりますか」

決めた料理と、ふだんの好みをそのまま言う。「魚にします。軽めが好きです」。

たったこれだけで、注文は文になっています。品種名も産地名も要りません。

材料さえ渡せば、組み立てはプロの仕事です。任せていいのです。

現場にいた頃、この短いひとことを受けたソムリエの頭の中では、候補が一気に3本まで絞られていました。

魚の火の入れ方、ソースの重さ、季節。あなたが5秒で渡した材料から、向こうは何十本もの棚を歩き直してくれます。

「気の利いた表現が、出てきません」

最後のひと押しが、形容詞ひとことです。さっぱり、濃いめ、華やか。どれかひとつ選ぶだけ。

「軽めの魚で、さっぱり」。ここまで言えたら、もうワインリストの上級者と同じ注文ができています。

それでも、とっさにひとことが出ない。よくわかります。あれはセンスの問題ではなく、練習の問題です。

だからわたしは、家での「ソムリエごっこ」をすすめています。いつもの1本をINAOテイスティンググラスに注いで、声に出してひとこと形容してみる。

プロの試験でも使われる小さな基準器なのに、1脚1,000円ほど。種明かしはグラスの記事に書きました。

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金曜の夜、グラス片手に「今日のは、濃いめ」とつぶやくだけ。誰も見ていないので、外しても恥ずかしくありません。

家で10回声に出したひとことは、レストランでもちゃんと出てきます。ごっこ遊びは、立派な予行練習なのです。

もっと実戦寄りの話は、会食でのワインの頼み方最低限の5つのマナーの2本に書いています。大事な会食の前夜にどうぞ。

次にあの分厚いリストが回ってきたら、そっと閉じて、ソムリエの目を見てください。

予算、料理と好み、形容詞ひとつ。息を吸って、この順番で。落ち着いて言えば、10秒もかかりません。

あなたが3つ伝えた瞬間、あの本の中身はぜんぶ、あなたの味方に変わります。使わない手はありませんよ。

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