白状します。わたしはひとりの夜に1本開けて、飲みきれたためしがありません。
ワインの仕事をして長いのに、体は正直で、グラス2杯で十分眠くなる。
だから今夜は、残った半分のボトルの話をします。飲み残しは失敗ではありません。ちゃんと扱えば、明日の楽しみです。

基本はこれだけ。栓をして、冷蔵庫
難しい道具は要りません。コルクかキャップを戻して、冷蔵庫に立てて入れる。以上です。
ワインの風味を変えていく主な相手は、空気と温度。冷蔵庫の低温は、その変化の速度をゆっくりにしてくれます。
ここでよく聞かれるのが「赤も冷蔵庫でいいの?」。いいんです。むしろ入れてください。
白はもちろん、赤も泡も、飲み残しの行き先は同じ冷蔵庫でいい。覚えることはひとつだけです。
夏の台所に出しっぱなしにするほうが、ワインにはずっと過酷です。
先日の温度の記事に書いた通り、飲む30分ほど前に出して戻せば、何の問題もありません。
いつまで飲めるのか
あくまでわたしの家での感覚ですが、泡は翌日まで、白や軽い赤は2〜3日。しっかりした赤なら、3〜4日おいしく飲んでいます。
残りが少ないほど瓶の中の空気が多く、変化も早くなります。半分以下になったら、早めに飲みきる算段を。
ただ、日数はあくまで目安で、最後の審判はあなたの舌です。
注いでみて、香りが痩せて酸っぱさだけが前に出てきたら、そのボトルは飲み頃を過ぎたということ。潔く料理係に異動してもらいましょう。
もうひと工夫するなら、半分以上残った日は小さな空き瓶に移し替えるのもおすすめです。
瓶の口まで注いで栓をすれば、中の空気がぐっと減って、変化はさらにゆっくりになります。
それでも飲みきれないぶんは、煮込み料理に回す。これはパリの台所の知恵です。
店の同僚は、まかないの赤ワイン煮をいつも前日の残りで作っていました。飲み残しに行き先があると思うだけで、開ける夜が気楽になります。
2日目は、劣化ではなく変化
そしてここからが、今日いちばん言いたいことです。翌日のワインは、前日よりおいしいことがある。
開けたての夜は硬く閉じていた赤が、ひと晩空気を吸って、2日目にふっと柔らかく開く。
店で働いていた頃、まかないの時間に前日の抜栓ボトルを味見するのが、わたしの密かな楽しみでした。
「昨日より今日だね」と同僚と顔を見合わせた夜が、何度もあります。
いまの家でも、金曜に開けた1本を日曜まで少しずつ飲むのがわたしの定番です。
日ごとに表情が変わるので、1本で3回楽しい。ひとり暮らしの飲みきれなさは、こうして特等席に変わりました。
飲み残しを「劣化していく残り物」と見るか、「変化を見せてくれる続きもの」と見るか。
それだけで、同じ1本の楽しみは2倍になります。
そもそも開けない、という最終解
とはいえ、変化してほしくないワインもあります。特別な1本や、長く付き合いたい高めのボトル。
そのための道具がコラヴァンです。栓を抜かずに細い針で1杯分だけ注ぐので、残りは開けていないのとほぼ同じ状態のまま。
「飲み残し」という概念そのものが消える、ずるい道具です。わたしも自宅で、良いボトルほど頼っています。
1杯だけと決めた平日の夜に、遠慮なく良い1本へ針を刺せるのは、ちょっとした贅沢です。
安い買い物ではないので、まずは今日の冷蔵庫の方法に慣れてからで十分です。
今夜の残り半分に、きちんと栓をして冷蔵庫へ。それは明日のわたしへの、ちょっとした差し入れです。
窓の外の夜風が涼しくなってきた頃の2日目の赤は、なかなかいいものですよ。
パリのわたしの窓辺でも、今夜また1本、途中まで開いています。


