「赤ワインは常温で」の常温は、日本の夏ではありません

ワインのあれこれ

数年前の8月、一時帰国した東京でのことです。

手土産に持って帰ったボルドーを実家で開けたら、香りはぼやけ、アルコールだけがつんと立って、どこか煮詰めたような味がしました。

ワインのせいではありません。室温、28度。「赤ワインは常温で」という教えを日本の真夏に律儀に当てはめた、わたしの失敗です。

緑の庭園から望むフランスの城館と湖

その「常温」は、パリの石の家の温度

「赤は常温」という言葉は、フランス語のシャンブレ——部屋の温度になじませる、という表現から来ています。

ただし、ここでいう「部屋」は現代日本の夏のリビングではありません。石造りで壁が分厚く、暖房もささやかだった、昔のフランスの室内。

感覚としては16〜18度くらいの世界です。

わたしがいま住むパリのアパルトマンも古い石造りですが、真夏でも階段室はひんやりしていて、半袖だと少し肌寒いくらい。

「常温」という言葉が生まれたのは、そういう場所なのです。

つまり28度の部屋に置かれた赤ワインは、常温ではなく「温まりすぎ」。

温度が上がりすぎるとアルコールの立ち上がりばかりが目立って、香りの輪郭が溶けてしまいます。あの夜の東京のボルドーが、身をもって教えてくれた通りに。

夏の終わりの赤は、冷蔵庫に30分

だから残暑の季節、わたしは赤ワインを平気で冷やします。目安は冷蔵庫で30分ほど。軽やかな赤なら小1時間入れて、瓶がうっすらひんやりするくらいでもいい。

冷やしすぎたかなと思っても、グラスに注げば温度はすぐ上がるので心配いりません。下げるのは時間がかかるけれど、上げるのは手のひらでもできる。

迷ったら冷やしめから始めるのが、失敗しないコツです。時間がない夜は、氷水に瓶ごと5分つけるだけでもずいぶん変わります。特別な道具は、何も要りません。

目安を少しだけ言葉にしておくと、しっかりした赤で18度前後、軽めの赤なら14度くらいから、というのがわたしの落としどころです。

数字を覚える必要はありません。「重い赤ほど常温寄り、軽い赤ほど白寄り」の一言だけ、頭の隅に置いてください。

パリ時代の店でも、グラスワインの赤は提供直前まで涼しいカーヴに置いていました。お客さまのテーブルで、ちょうどよく開いていくように。

温度は、ワインの時間割なのです。

実際、パリのビストロでは、夏になるとロワールやボジョレーの軽い赤が、白ワインと同じ氷入りのバケツで出てくることがあります。誰も眉をひそめません。

少し冷えた軽い赤のおいしさは、ちょっとした発見だと思います。ワインの温度はマナーではなく、好みの領域なのです。

そしてこの「少し冷やした赤」は、夏から秋への橋渡しにちょうどいいのです。

8月の間ずっとビールや白ばかりだった方が、いきなり常温のどっしりした赤に戻ると、体が驚いてしまう。

まずは冷やした軽めの赤から始めて、夜風が涼しくなるのに合わせて、少しずつ温度と重さを上げていく。

9月の食卓は、そうやって赤ワインに帰っていくのがいちばん自然だと思います。

1杯ずつなら、温度も自由

そして温度で遊びたくなったら、コラヴァンの出番です。

先日の記事に書いた通り、栓を抜かずにグラス1杯分だけ注げる道具なので、今夜はよく冷やした1杯、明日は少し戻した1杯と、同じボトルで温度の飲み比べができてしまう。

1本を一晩で飲みきらなくていいと、温度はこんなに自由になるのかと、使っているわたし自身が驚いています。

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夏の終わりの夜、窓を開けて、少し冷えた赤をひと口。ヴァカンス明けのパリで、わたしがいちばん好きな時間です。

あなたの町の夜風にも、そろそろ赤が合う頃だと思います。

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