11月のブルゴーニュを、わたしは長いこと「冬の入り口」だと思っていました。収穫は終わり、畑は裸になり、朝は霧。観光には向かない季節だと。
ボーヌの町に着くまでは、本気でそう思っていたのです。
着いてみたら、町は一年でいちばん沸いていました。ホテルは満室、レストランは予約で埋まり、広場にはテントと樽。
11月の第3日曜、ボーヌでは世界最古と言われるチャリティワインオークション——オスピス・ド・ボーヌの競売が開かれます。

畑を寄付して、人を治す
オスピス・ド・ボーヌは、もともと病院です。1443年、ブルゴーニュ公国の宰相ニコラ・ロランが妻ギゴーヌとともに建てた、貧しい人のための施療院。
以来、寄進で少しずつ増えたブドウ畑を持ち、そのワインを売った収益で運営されてきました。
競売の形になってからも150年以上、売上は今も医療や建物の維持に使われています。畑を寄付して、その実りで人を治す。
この仕組みを知ったとき、わたしはワインという飲み物のことが、もう一段好きになりました。
冒頭の写真の、あの色彩屋根の中庭がその施療院です。わたしが撮ったこの日は気持ちよく晴れていて、幾何学模様の瓦が絵本のように光っていました。
内部も見学できて、圧巻は赤い天蓋つきのベッドがずらりと並ぶ「貧者の大広間」。
病人が寝たまま礼拝堂のミサに参加できるよう設計された空間で、豪華さと祈りが同居しています。競売の頃の空はたいてい灰色で、息が白い。
それでも中庭は人で埋まります。
「栄光の三日間」という、浮かれた名前
競売の週末には名前がついています。レ・トロワ・グロリューズ——栄光の三日間。
土曜はクロ・ド・ヴージョの城館で利き酒騎士団の晩餐会、日曜が競売、月曜はムルソーで造り手たちの宴。
要するに、ワインの都が三日間まるごと宴会をするのです。
わたしが現地で見てきた顛末は以前の体験記に書きました。
会場の熱気は、あの記事のほうが生々しいと思います。
競売にかけられるのは、その年に収穫されたばかりのワインの樽です。つまり買い手は、まだ荒削りな新酒の味から数年後の姿を想像して値を付ける。
会場の市場ホールでは、値がせり上がるたびに歓声が起きます。チャリティですから、高く売れるほど拍手が大きくなる。
「高すぎる!」が喜ばれるオークションを、わたしはここ以外に知りません。
樽を落札するのは基本的にプロや団体ですが、町のお祭りそのものは旅行者にも開かれていて、通りには屋台と試飲のスタンド、どこからか金管バンドの音。
11月の寒さを、人の熱気が上回る週末です。

秋のブルゴーニュは、実は当たり月
旅として見ても、秋のブルゴーニュは狙い目です。夏の混雑が引いて、畑には黄金色の名残、食卓にはジビエときのこ。
ディジョンからボーヌまでは電車で20分ほどで、途中の車窓には収穫を終えた畑がずっと続きます。
競売を見て、施療院を見学して、夜はブフ・ブルギニョンに村名ワイン。1泊2日でも、ワイン好きの記憶には十年残る旅になります。
ただし競売の週末だけは別格で、ボーヌの宿は数ヶ月前に埋まります。行くと決めたら、宿だけは先に。
予約を甘く見て、夜遅くに隣町行きのバスを探した人間からの忠告です。
そして旅を決めた夜は、前祝いに泡をどうぞ。わたしの定番は、以前この連載でもご紹介した、ルイ・ロデレールのコレクション。
1万円前後で、旅の始まりに乾杯する理由としては十分すぎる一本です。
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今年の競売は11月15日の日曜。この記事を書きながら、わたしはもう、航空券のサイトを開いてしまっています。


