読者の方から、こんな質問をいただきました。「ラベルの年号って、気にして選んだほうがいいんですか?」
いい質問です。答えから言います。普段の1本なら、気にしなくていい。
気にする価値があるのは、たった2つの場面だけです。今日はその線引きの話をします。

年号の正体は、その年の天気
ヴィンテージとは、そのワインのブドウが収穫された年のことです。
ブドウは農作物ですから、その年の日照や雨が、味の性格をつくります。
収穫の記事に書いた通り、生産者が1年でいちばん緊張するのがこの時期。
つまり年号の正体は、あの賭けの記録なのです。
ただ、日常の価格帯のワインの多くは、年ごとのブレを抑えて安心して飲めるように造られています。
だから売り場で「これは当たり年だろうか」と悩む時間は、正直もったいないとわたしは思っています。
日常価格帯のワインは、そもそも「いま開けておいしいこと」を目指して送り出されているものがほとんどです。
悩むならむしろ、年号よりも産地や造り手のほうをひとつ覚えて帰ってほしい。そのほうが次の1本につながります。
白状すると、わたし自身も駆け出しの頃はヴィンテージチャートを丸暗記しようとして、3日で挫折しました。それで困った場面は、ほぼありません。
例外その1: 記念の年を贈るとき
ヴィンテージが主役になる場面の1つ目は、贈り物です。
生まれ年、結婚した年、会社を立ち上げた年。その年号のワインは、味の説明が要らない贈り物になります。
わたしも輸出の仕事で「娘の生まれ年を1本」という注文を何度も受けてきました。
箱を開けた瞬間の顔が見えるようで、探すこちらまで嬉しくなる注文です。
選び方の実務は贈り物ワインの記事にまとめてあります。
ちなみに記念年の1本は、すぐ飲まずに取っておくのも正解です。「いつ開けようか」と相談する時間から、もう贈り物は始まっていますから。
例外その2: 長く寝かせるとき
2つ目は、長期熟成を前提に買うワインです。
何年も寝かせるワインは、収穫年の個性が時間とともに大きく育っていきます。だからあの世界では、年号がまじめに議論されるのです。
ボルドーの生産者の試飲室で、同じワインの年号違いをずらりと並べて飲ませてもらったことがあります。
同じ畑、同じ造り手なのに、隣り合うグラスがまるで別人。鳥肌が立ちました。
片方は日差しをたっぷり浴びたような丸さ、もう片方は雨の多い年らしい細身の輪郭。
当主は各年の天気を、昨日のことのように語ってくれました。年号は飾りではなく、その年の天気の記憶なのだと、あのとき体でわかったのです。
星付きの店でも、古い年号を注文なさるお客さまは決まって物語をお持ちでした。
「この年に彼女と出会ったんだ」とグラスを掲げた紳士の顔を、いまでも覚えています。
あの注文は、味ではなく時間を飲んでいたのだと思います。
年の違いを、3,000円で遊んでみる
もしこの「年による違い」を体験してみたくなったら、高いワインは要りません。
わたしのおすすめは3,000円前後のボルドー、シャトー・モン・ペラです。
しっかりした造りで、年号違いを買って並べる遊びが現実的にできる価格。入門にちょうどいい1本だと思います。
濃いめの果実味なので、飲み比べの日は肉料理を用意しておくと食卓ごと楽しめますよ。
お店によって在庫の年号は違うので、届いた年号から遊びを始めるくらいの気持ちでどうぞ。
まとめる代わりに、ひとつだけ。年号は暗記するものではなく、思い出す日付です。
あなたの大切な年のワインも、きっとどこかのセラーで静かに待っていますよ。


