初めてフランス人の同僚の家のアペロに呼ばれた日、乾杯の泡はシャンパーニュではありませんでした。
出てきたのはアルザスのクレマン。1本10ユーロほど。
「普段の泡はこれで十分。シャンパーニュは特別な日のもの」と彼女は言いました。
あの夜のテーブルには、焼きたてのキッシュと、オリーブと、笑い声。泡はその真ん中で、ちゃんと主役でした。
高くない泡で日常を祝う。フランスの家庭は、この使い分けが本当に上手です。今日はその、泡の賢い選び方の話。

クレマンとカバは、製法の親戚
シャンパーニュの泡は、瓶の中でもう一度発酵させて生まれます。瓶内二次発酵と呼ばれる、手間のかかる製法です。
実はこの製法、シャンパーニュ地方の専売特許ではありません。
フランスの他の土地で同じように造られる泡が、クレマン。アルザス、ブルゴーニュ、ロワールなどに産地があります。
スペインにも同じ製法の泡があって、こちらはカバと呼ばれます。
カバは値段がさらに手頃で、家に常備する泡としては頼れる存在です。
どちらも2,000〜3,000円台から、泡のきめ細かいきちんとした1本が見つかる。
名前が違うのは、シャンパーニュという名称を名乗れるのが、あの地方で造られた泡だけだからです。
逆に言えば、製法の骨格はかなり近い。
平日の泡をクレマンやカバにするのは、節約ではなく良い趣味だと、わたしは本気で思っています。
選び方に迷ったら、お店で「クレマンはありますか」と聞いてみてください。
産地ごとに個性はありますが、最初の1本はどの土地のものでも外れにくい。
手土産にも便利です。「シャンパーニュじゃないの」と思われないかって?
大丈夫、渡した相手の記憶に残るのは名前ではなく、乾杯の楽しさのほうです。
実際わたしも、友人の家へはクレマン、大切な商談の手土産にはシャンパーニュと使い分けています。
それでも、シャンパーニュは特別
では同じ製法なら中身も同じかというと、そうは言い切れないのが面白いところです。
シャンパーニュは冷涼な北の土地のぎりぎりの条件で育ったブドウから造られます。
熟成期間の規定も長く、過去の年から取り置いた原酒を混ぜて味を組み立てる文化もある。
この積み重ねが値段になっている中身は、シャンパーニュはなぜ高いのかの記事で開けてみました。
泡の細かさ、香りの層の厚み、余韻の長さ。並べて飲み比べると、値段の差には理由があるとわかります。
輸出の現場にいても、シャンパーニュの注文だけは世界中から途切れません。あの名前には、それだけの信頼が乗っている。
結婚のお祝い、昇進の夜、ご両親の記念日。人生の節目には、やっぱりシャンパーニュを開けたくなる。
この気持ちの正体こそ、あの土地と時間が積み上げてきたものなのだと思います。
だからわたしの結論はこうです。普段はクレマン、勝負の日はシャンパーニュ。
役割が違うだけで、どちらが上という話ではないのです。
勝負の日の1本なら
特別な日の側の1本として、わたしがよく名前を挙げるのはルイ・ロデレールのコレクションです。
家族経営の名門が、取り置いた原酒をぜいたくに使って組み立てる、1万円前後のスタンダード。
クレマンと並べて飲むと、シャンパーニュが特別と言われる理由が、グラスの中でそのまま答え合わせできます。
▶ 楽天(エノテカ公式)でルイ・ロデレール コレクションを見る
▶ Amazonでルイ・ロデレール コレクション(正規品)を探す
白状すると、渡仏前のわたしは、泡なら何でも「シャンパン」と呼んでいました。
いまは冷蔵庫にクレマンを1本立てておいて、金曜の夜に理由もなく開けます。
ぽん、という音だけで、部屋の空気が少しだけ祝日になる。泡のいちばんの効能は、たぶんあれです。

